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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)12846号 判決 2000年1月28日

原告

岡野健二

右訴訟代理人弁護士

宇賀神徹

被告

ビューティー株式会社

右代表者代表取締役

白水馨二

右訴訟代理人弁護士

渡辺直樹

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告が、被告西日本地区本部フィールド・テクニカルに就労すべき義務のないことを確認する。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、同人に対する平成一〇年一〇月一日付西日本地区本部フィールド・テクニカルへの配転命令が、権利の濫用として無効であるとして、被告に対し、西日本地区本部フィールド・テクニカルでの就労義務がないことの確認を求めた事案である。本件の主たる争点は、右原告に対する配転命令を権利濫用とすべき「特段の事情」が存するか否かである。

なお、被告は、本件はいわゆる配置転換(または「配転」)の問題ではないと主張するが、配置転換とは、従業員の配置の変更であってしかも職務内容または勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるものをいい、営業職であった原告を、事務職である西日本地区本部フィールド・テクニカルの所属とすることが、これにあたることは明らかである。

二  争いのない事実

1  被告は、洗車機及び各種洗浄機の販売及び修理、ガソリンスタンド用機器の販売等を業とする株式会社である。

原告は、昭和五五年四月に被告に雇用され、以後被告大阪支店、神戸営業所、大阪営業所等において洗車機、洗浄機の販売営業職として就労してきた。

2  平成一〇年八月一八日、被告は、原告に対し、同年九月二五日をもって解雇する旨の解雇予告通知を交付した。

原告は、右解雇予告は、整理解雇の要件をみたさない違法な解雇であり無効であると主張し、平成一〇年九月二五日、被告は原告に対する解雇予告を撤回した。

3  被告は、右解雇予告の撤回とともに、原告に対し、新たな所属と業務を決定するまでの期間として平成一〇年一〇月二日までの自宅待機を命じ、同年一〇月一日、業務命令として、同年一〇月五日以降の原告の所属と業務を以下のように変更した(以下「本件配転命令」という)。

(一)所属 大阪営業所から西日本地区本部フィールド・テクニカル(以下「F/T」という)。

(二)業務 販売営業職から販売事務全般(具体的職務はF/T課長の指示による)。

(三)役職 係長営業職から一般事務職

原告は、本件配転命令により西日本F/T所属となり、F/T課長の指示に服して就業している。

本件配転命令により、原告には、係長手当一万円、業務手当三万六〇〇〇円が支給されなくなった。

三  当事者の主張

1  原告の主張

(一) 本件配転命令は、解雇予告、その撤回、配転命令という特殊な経緯を辿っており、以下の事実に鑑みれば権利の濫用に亘る「特段の事情」があるというべきである。

(1) 業務上の必要性がないこと

原告は、勤続二〇年を迎えようとする大卒男子社員であるが、F/T就任以来、倉庫の整理、銀行周り、出荷調整等の職務しか与えられておらず、また、現在F/Tの業務は、原告を除いても円滑に回っていることからすると、原告をF/Tに配属する必要性はないといわざるをえない。

この点被告は、係争中であるがゆえに原告を右業務につかせているのであり、原告がF/Tに留まることが決まれば、原告にF/Tでの重要な業務を任せると主張するが、後述のような被告の原告に対する態度、職場内の雰囲気からすれば、今後とも原告がF/T内において重要な業務を担うことがあるとは考えられない。

(2) 不当な動機、目的

以下の点からすると、被告は原告を自主退職に追い込むことを意図して本件配転命令をなしたものであるといえる。

イ 原告と同様に解雇予告を争い被告に復帰した林政弘(以下「林」という)は、解雇予告前の職種に復帰しているが、原告は林と別異の処遇を受けている。

ロ 原告は係長職から一般社員に降格され、現在F/Tの平社員である。

ハ 本件配転命令により、原告は役職手当一万円、業務手当三万六〇〇〇円を失い、合計四万六〇〇〇円もの収入減額となった。

また、原告のF/Tでの職務は、倉庫の整理、銀行周り、出荷調整等であり、その仕事量からも日々残業するには及ばず、原告には残業手当が全くつかない。

さらに本件配転命令による事実上の不利益として、原告は、営業車両を取り上げられた。

ニ 職場では、上司、同僚を問わず原告に語りかける者は殆どおらず、社内では会社と争っている不届者、若しくは関わりを持たない方がよい者といった目で見られている。社内で企画されたボーリング大会に原告は声すら掛けられず、全く無視された状態である。また本件訴訟で原、被告が、妥当な解決を目指して和解協議に入ったころ、西日本地区本部において「原告は和解を望んでいる」「あきらめた」等の風評が流れた。

(二) 被告は、本件配転命令は原告との話し合いの結果なされたものであって、原告はこれに異議なく同意していたとし、その後、原告は、同意を撤回したが、右撤回は無効であると主張する。しかし、そもそも原告は本件配転命令について被告と話し合いをしたことはなく、同意をしたこともない。原告は解雇予告の撤回と共において自宅待機を命ぜられ、その指示に従い指定の期限まで自宅に待機していたところ、本件配転命令を受けたのであって、本件配転命令を「原告との話し合いの結果なされたもの」とする被告の主張はその前提を欠く。また、原告は本件配転命令に服しているが、それは業務命令違背による懲戒を回避するためであって、配置転換に同意したわけではない。本件配転命令の数日後、原告は代理人を通して、被告に対し、本件配転命令について異議を述べており、原告の熟慮期間、代理人との打ち合わせ等を考慮すれば、これらは当然必要な時間であるから、異議を無効とするものではない。

2  被告の主張

(一) 本件配転命令に至る経緯

(1) 被告における営業職削減の必要性

長引く不況により被告の売上、営業利益、当期利益は、減少の一途を辿り、また「特石法」の廃止により売上げが更に減少する可能性が高く、この傾向は関西地区で特に著しかった。

かかる経済状況、被告を取り巻く環境に対応するため、被告は平成一一年度(平成一〇年九月二六日~平成一一年九月二五日)において、<1>七支店責任体制から五地区(北日本、東日本、中日本、西日本、九州)本部責任体制への変更、<2>営業所の統廃合(全国で三営業所、一五出張所を閉鎖した。西日本地区においては、堺及び神戸の営業所、東大阪、和歌山、福山及び松江の各出張所を閉鎖した)、<3>サテライトセールス、デポジットサービス体制を設けるという大規模な組織改革を断行した。

営業職は、一人当たりの生産性が急激に低下しており、その傾向は関西地区において著しい状況であった、又、従来のように、個々のガソリンスタンドを取引先としても売上の増加は期待できないことから、一社で多数のガソリンスタンドを経営する会社を主要取引先とするよう営業方針が転換されるようになり、尚更営業職の余剰が顕在化した、この営業職社員の余剰は、関西地区においては、堺、神戸の営業所を閉鎖し、東大阪、和歌山の出張所を閉鎖したことにより、特に顕著であった。

(2) 原告に対する解雇予告

被告では、前記の組織改革に伴う営業職の人員の余剰に対応するため、<1>閉鎖拠点に勤務する従業員で転勤が不可能・困難な従業員、<2>セールス職については販売実績がその職能資格等級の期待役割に比して著しく低い従業員、<3>サービス職については拠点単位の余剰人員の中でも特に年令の高い従業員を基準として解雇予告をすることになった。

原告については、その営業成績は、平成八、九年度においては全国平均以上の成績ではあったものの、これは原告の担当エリアが大阪地区という本来需要大きいエリアであったことによるものであり、決して原告の営業成績が良好であることの根拠とはなり得なかった。逆に、原告には、<1>セールスとして顧客からの評価を得ることができない、<2>顧客の最終決済を受けずに商品を納入したことがある、<3>顧客との約束事項の履行がされずに被告の信用を低下させたという営業職としての問題点もあった。そして、平成一〇年度においては原告の営業成績は全国平均を大きく下回り、又、同じく大阪地区をエリアとしていた他の従業員との対比においても著しく営業成績が劣っていた。このため被告は、前記基準に従い、平成一〇年八月一八日、原告に対し解雇予告をなした。

(3) 原告に対する解雇撤回とその後の経緯

原告に対する解雇予告後、原告から被告に対して担当役員と話し合いたいとの希望があったため、同月三一日、被告の大木豊宏取締役(以下「大木」という)が原告と話し合いをした。右話し合いにおいて、原告は<1>被告から原告に貸与している営業車両の買い取り、<2>原告の居住する被告の借上住宅の明渡期限の延長、<3>退職金の上積みの各要求をなし、被告においてこれらを検討することとなった。

平成一〇年九月一七日、原告代理人より被告に対して解雇の無効を主張する書面が郵送され、被告は原告代理人に対し、同月二五日、同年一〇月二日まで返答を待って欲しい旨連絡した。そして、原告が前記の話し合いとは異なり、被告での復帰を強く望んでいることが判明し、又被告における解雇予告手続も性急に過ぎたとも思われたことから、被告は原告代理人と話し合い、前記の解雇予告を撤回することとした。そして被告においては大幅な組織変更がなされたことに伴い、原告の新たな所属・業務を決定することとされ、被告は、同月一日、原告の所属を西日本地区本部F/T、業務を販売事務全般とし、出社日を同月五日とする旨通知した。そして原告は、同月五日何らの異議も述べることなく被告から指定された所属・業務に従事した。

ところが、同月八日になり、原告代理人から被告に対し、原告を営業職に復職させるよう要求があった。被告はこれに対し、被告が原告と話し合った結果、原告が異議なく指定された勤務に従事したことにより、原告・被告間の問題は全て円満に解決している旨主張すると共に原告代理人からの要望を、原告からの配置転換希望という意味で再検討することを約した。しかしながら、前記の原告の営業職としての問題点及び前記のとおり特に関西地区における営業職の余剰状態から、同月二一日、これを拒否する旨の回答をなした。その後の同月二三日、再度原告代理人より、営業職への復帰の要望があり、被告は、中国・四国地方においては営業職を受け入れる余地がないではないため、原告代理人に対し、「中国・四国地区での営業職」の提案をしたところ、原告代理人からはこれを原告と検討する旨と原告の退職を前提とする退職金の上積み、貸与車両の譲渡、借上住宅の平成一一年三月末日までの延長の提案があった。被告はこれを検討する旨約し、後日電話にて退職金の上積み等の提案をなした。しかし、結局、原告代理人において原告と協議した結果、いずれもこれを拒否するとの回答がなされ、結局交渉は決裂した。

(二) 以上のとおり、本件配転命令は、解雇予告撤回に関する原告との話し合いの結果なされたものであり、このため、原告は命じられた業務に異議なく就労していたものである。そして、有効に発令された業務命令を異議なく受け入れた後に原告においてその同意を撤回してもその効力は無効と言うべきである。

(三) 本件配転命令は被告の状況とこれに伴う大幅な組織変更の中で行われたものであり、原告の技能、経験、知識にもっとも適するものであり、十分な合理性を有するから、権利濫用ではない。

(1) F/Tは、フィールド・テクニカルの略称であり、前記の組織改革に伴って新たに設置された部署である。その任務ないし役割は、地区本部長が管理・統括している支店・事務所の業務運営が会社の経営方針や基準、ルールどおりになされているかについて、実務作業を通じて問題点、課題点を具体的に見出し、地区本部長に対し適時に助言・提案を行ったり、支店・事務所に対して直接指導・教育することを任務とするものである。

F/Tの業務は、単なる総務ではなく、地区本部(原告の場合には西日本地区本部)に所属し、「指導・教育業務」「金銭出納業務」「売掛金管理業務」「受注管理業務」「出荷管理業務」「地区本部長の補佐業務」等を行うものである。F/Tの業務は、「契約の締結(受注)」から「出荷」「売掛金管理」「金銭出納」と販売(セールス)を中心とする被告の業務全般を見通す目ないし知識が必要とされる部署である。F/T業務に必要な知識として、「金銭出納関連業務」では「注文書の実務処理マニュアル」という注文書発行の経験が必要となる。「売掛金管理業務」においても「リース知識、お客様知識、取扱商品知識、洗車機等商品業務知識」が必要である。「受注管理業務」でも「契約書類の書き方の知識、特仕様知識」が必要である。

(2) 原告は、職種を「営業職」と限定して採用されたものではない。

西日本地区における職種としては、営業職(セールス)、F/T以外には、庶務、サービスがあるが、サービスは技術系の職種であり、その技能・経験のない原告には適さない業務であり、又、庶務は全くの事務系の職種であり、原告のセールスとしての経験・知識を生かす職種とは言えない。ところで、営業職、特に関西地区の営業職は人員が余剰であり、又、原告には前記のとおりの営業職としての問題点、成績不良があったことから、営業職への配属は考えられなかった。結局、営業職以外で原告の技能と経験・知識を生かす業務としてはF/Tが最適と考えられ、同時に、原告にとっては勤務場所の変更もないことから、原告の所属を西日本地区本部F/Tとした。

以上のとおり、原告を西日本地区F/T業務に配属したことは、原告の営業としての知識・経験を生かす職場として最適なものであったのであり、本件配転命令は適正なものである。

(3) 本件配転命令によって原告の勤務場所は変更にならず、指摘するような配置による不利益は、存しないかあるいは配置の変更に伴うやむをえない限度のものである。すなわち、原告は、本件配置によって、<1>役職手当一〇、〇〇〇円、<2>業務手当三六、〇〇〇円、<3>借上住宅の家賃補助八万円の減収があり、又、営業車両が利用できないことによる事実上の不利益を主張する。しかしながら、<1>被告会社においては、役職は一年毎に任命されるものであり、年功序列制ではなく、職能資格制度を採用している被告会社においては前年度に係長であったからといって、翌年度も係長であるとは限らないから、役職手当は恒常的なものとして期待すべき性質のものではない。<2>業務手当は就労時間の管理が困難な営業職のために残業手当を支給しない代わりに支給されるものである。営業職ではない原告が業務手当の支給が受けられないのは当然であるが、就労時間の管理が可能なF/Tにおいては残業手当が支給されることとなっており、原告に対しては現に支給されている。<3>借上住宅の家賃補助の打ち切りは、被告の借上住宅規定に基づくものであり、本件の配置とは何らの関係も有しない。<4>「営業車両の貸与がなくなることによる事実上の不利益」はその意味が不明である。被告会社においては通勤(取引先への移動等を含む)のために営業職には営業車両を貸与しているが、営業車両を貸与しない場合にも通勤手当を支給している。

第三当裁判所の判断

一  証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

不況等による業績不振のため、被告は大規模な組織変更を検討し、その結果、特に閉鎖拠点の営業職の社員が過剰となったことから、<1>閉鎖拠点に勤務する従業員で転勤が困難あるいは不可能な者、<2>職能資格等級の期待役割に比して販売実績が著しく低い者、<3>年齢の高い者という基準を設定し、右基準に該当する従業員に対し解雇予告を行うことになった。そして、被告は、平成一〇年度の販売実績がふるわず、また大阪コスモ石販南千里サービスステーションに洗車機を納入する際に、納入先の最終決済を得ずに納入し顧客からクレームをうけるなど、その営業について問題があると判断した原告に対しても平成一〇年八月一八日解雇予告を行った。これに対し、原告は担当役員との話合いを希望し、大木が応対した。原告は、大木に退職を前提に退職金の上積み等の条件を提示したが、被告は社用車の買い取り、社宅の継続使用、引っ越し費用の負担は承認したものの、退職金の上積みは拒否した。このため原告は代理人を依頼し、被告に対し、解雇予告の撤回を求めたところ、被告は、同年九月二五日原告に対する解雇予告を撤回することとし、所属、業務は改めて決定するとして自宅待機を命じた。そして被告は、原告について営業職として問題があると判断していたこと、他方組織改革に伴う新設部署である西日本地区F/Tの責任者が高齢であり、今後同人の後を引き継ぐべき者が必要となること、F/Tの業務内容は、「指導・教育業務」「金銭出納業務」「受注・出荷管理業務」等というものであり、これまでの原告の営業職としての経験も生かせるものであることから、原告を西日本地区F/Tに配属することとし、これを原告に通知した(就業規則一二条、一三条)。原告は、同年一〇月五日よりF/Tの業務に従事したが、同月八日に、原告代理人から、原告は営業職を希望しており、解雇予告が撤回された以上、当然もとの営業職に戻して欲しいとの要望があった。これに対し、被告は関西地区の営業職として原告を受け入れる余地はないが、中国、四国地区の営業職であるならば戻してよいと返答したところ、原告はこれを拒否した。他方、原告からは、再び退職を前提に退職金の上積みの話も提示されたが、被告はこれを拒否した。

二  原告は、撤回とは、旧来の状態に復することであり、被告は、解雇予告を撤回すると約束した以上、原告を旧来従事していた係長営業職に復帰させなければならず、旧来の業務と異なる業務への移動は解雇予告撤回の約束に反し無効であると主張するが、解雇予告を撤回するからといって、その後に被告において配置転換をおこなえないわけではなく、本件において、前記認定のとおり原告被告間で解雇予告の撤回を交渉中に、原告を旧来の業務に就かせるとの合意があったとも認められないから、右原告の主張は理由がない。

三  使用者は、雇用契約に基き、その範囲内で、労働者に対し、勤務内容や勤務場所の決定等人事権を行使することについて裁量権を有し、この裁量権の行使は、業務上の必要性がない場合、不当な動機、目的を有する場合、あるいは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しくこえる不利益を負わせる場合といった社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用と判断される場合でなければ、違法とはならない。

原告は職種を限定して採用されたものではない(弁論の全趣旨)。本件配転命令は、被告の組織改革に伴い発生した営業職の余剰という事態に対処するために行われたものである。そして被告におけるF/Tの業務は「指導・教育業務」「金銭出納業務」「受注・出荷管理業務」等幅広いものであるところ、F/Tの業務の中には原告の営業職としての経験を活かせるものもある(証拠略)。また本件配転命令により、原告の勤務場所は変更とならず、役職手当一万円及び業務手当三万六〇〇〇円の不支給についても、役職手当については、人事管理業務を行わなくなったことによるものであるうえ、被告においては役職は一年毎に任命されており、恒常的なものではないこと(書証略)、業務手当については、F/Tにおいては残業手当が支給されることに照らせば、通常甘受すべき程度を著しくこえる不利益があるとまでは認められない。

原告は、本件配転命令が、解雇予告、その撤回、配転命令という経緯を辿ったものであること、原告と同様に解雇予告を受け、これが撤回された林が元の営業職として復帰したのに原告はF/Tの配属となったこと、原告が、F/Tに出社したときには原告の机はなく、また現在も銀行回りと倉庫整理といった仕事しかしていないこと、さらに社内で原告に話しかけるものはおらず、腫物的存在であることなどから、本件配転命令は、原告を退職に追い込むという不当な目的を意図したものであると主張する。

確かに、右原告主張の各事実は認められるものの、前記認定のとおり、被告は、原告を西日本地区のF/Tの次期責任者となることを期待して配属したこと、現在配属先について係争中(本件訴訟)であることから、仕事を完全に任せられるとの判断をしかねていること(人証略)、被告は原告に対し、F/Tの業務内容を理解するため研修を受けることを提案していること(原告本人及び弁論の全趣旨)、前記認定による解雇予告、その撤回、その後の本件配転命令、本訴提起にいたる一連の経緯に照らせば、本件配転命令が、原告を退職させるべくなされたものであるとまでは認められない。

以上によれば、本件配転命令について、これを権利濫用としうる特段の事情があったとはいえず、原告の主張は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 川畑公美)

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